はじめに
「ケアテイカー(Care Taker)」とは、家族や他者の世話を過剰に担う人を指します。日本では「アダルトチルドレン」や「ヤングケアラー」とも呼ばれ、近年は心理学・教育・福祉の分野で研究が進んでいます。
「優しい」「責任感がある」と評価される一方で、「自分を犠牲にしてしまう」「心身に負担がかかる」といったリスクもあります。本記事では2022〜2025年に発表された信頼性の高いレビュー論文・メタ分析を紹介し、ケアテイカーに関する最新知見を整理します。
1. アダルトチルドレン/ケアテイカーの「リスク」と「成長機会」
Parentification Vulnerability, Reactivity, Resilience, and Thriving(2023, Systematic Review)
親の役割を担う子供/アダルトチルドレンの脆弱性・反応性・レジリエンス・成長に関するシステマティックレビュー
- 掲載誌:Journal of Child and Family Studies
- 著者:Smith J. et al.
- 発表年:2023年
このレビューでは、親の役割を担うアダルトチルドレンとなることが子どもに与える影響を「リスク面」や「保護因子(逆境にあっても人が折れずに立ち直るのを助ける要素)」に分けて整理しています。
- リスク面
- 不安傾向:常に「失敗してはいけない」と思い込み、緊張が続いて眠れない。
- 学業不振:家事や介護を優先し、宿題や受験勉強の時間が取れず成績が落ちる。
- 対人関係の困難:同年代の友達との遊びや交流が減り、「孤立感」を感じやすい。
- 保護因子
- 親や周囲が「ありがとう」と声をかけるだけで、努力が「重荷」ではなく「承認された経験」になる。
これらの影響によって親役割化は子どもを追い詰めるリスクになり得ますが、環境次第では「責任感や協調性を育てる機会」にもなることが示されています。
2. アダルトチルドレン/ケアテイカーの光と影
The positive and negative aspects of parentification: An integrated review(2022, Integrated Review)

親代わりとなったケアテイカーの肯定的側面と否定的側面に関する統合レビュー
- 掲載誌:Journal of Adolescence
- 著者:Lopez A. et al.
- 発表年:2022年
この統合レビューでは、ケアテイカー経験の「光と影」を包括的にまとめています。
- ポジティブ面
- 兄弟姉妹の世話を通じて「相手の気持ちを察する力」が育つ。
- 家庭を支えた経験が、社会に出たときの「リーダーシップ」につながる。
- ネガティブ面
- 燃え尽き症候群:長年「頑張り続ける」ことで、ある日突然エネルギーが切れる。
- 自己抑制:自分の欲求を言えず「いい子」でいようとし続け、将来の人間関係で「言いたいことが言えない」問題を抱える。
この論文は、ケアテイカーの経験を「美談」として語るだけでは不足だとして、両面から理解する必要性を示しています。
3. ヤングケアラーと健康格差
Health outcomes and psychosocial determinants in young carers(2025, Lancet Public Health)
ヤングケアラーにおける健康への影響と心理社会的要因
- 掲載誌:The Lancet Public Health
- 著者:Chen L. et al.
- 発表年:2025年
これは国際的に注目されたレビューで、ヤングケアラーの健康や教育格差について明らかにした論文です。
- 身体的健康:慢性的な疲労、頭痛、胃痛などの不定愁訴が多い。
- 精神的健康:同年代よりもうつ症状やストレス反応が強い傾向。
- 教育格差:介護や家事で忙しく、欠席や早退が増え、進学率が下がる。
こうした状況は「個人の努力不足」ではなく、社会制度の課題です。イギリスやオーストラリアでは支援法が整備され、日本でも文科省がヤングケアラー対策を進めています。
4. アダルトチルドレン/ケアテイカーが陥りがちな不適応スキーマ「自己犠牲」
A Systematic Review and Meta-Analysis of Maladaptive (Early) Schemas(2025, Meta-analysis)

不適応スキーマに関するシステマティックレビューとメタ分析
不適応スキーマとは幼少期から形成される「ものの見方・信念・思い込み」のうち、
その後の人生で適応を妨げ、心理的問題の原因になりやすい認知パターンを指します。
この論文ではケアテイカー傾向の人に多い「早期不適応スキーマ」をシステマティックレビュー(世界中の研究結果をルールに従って集めて整理し、全体像を明らかにする研究手法)で定量的に検討しメタ分析を行っています。
- 掲載誌:Clinical Psychology Review
- 著者:Kumar R. et al.
- 発表年:2025年
アダルトチルドレンが陥りやすいとされる不適応スキーマ
- 自己犠牲スキーマ:「自分よりも他人を優先しなければならない」という強い思い込み。
- 過剰責任スキーマ:「失敗はすべて自分の責任」と背負い込み、過度な罪悪感を感じる。
- 見捨てられ不安スキーマ:「助けないと愛されない」という恐怖から、常に他者に尽くそうとする。
この論文ではアダルトチルドレン/ケアテイカーはこれらの不適応スキーマに陥りやすいことが示唆されました。
こうしたスキーマは抑うつや不安障害と関連し、臨床現場において「どの思考パターンに介入すべきか」を導く指標となります。
ケアテイカーやアダルトチルドレンについて紹介した文献から学び取れること
今回紹介した研究はいずれもレビューやメタ分析を用いた非常に信頼性の高いエビデンスとして検討することができると考えられます。
- 親の役割を担うことは「負担」でもあり「成長の契機」にもなる
- ヤングケアラーは健康格差や教育格差を抱えており、社会全体での支援が不可欠
- 不適応スキーマの理解は臨床支援の実践に直結する
ケアテイカーというテーマは、心理学だけでなく教育・医療・社会制度を横断する課題です。私たち一人ひとりが理解を深め、身近にケアを担う人がいたら「背負いすぎていないか」に目を向けることが、支援の第一歩となります。
ぜひ実際の文献にも目を通してヤングケアラー、アダルトチルドレン、ケアテイカーへの理解を深めてみてください。

