「ケアテイカー」は、アダルトチルドレンが陥りやすい家族や社会の中での役割タイプのひとつです。子どもの頃から不安定な家庭環境の中で、家族や周囲の問題を自分が解決しようとし、その結果として自分に必要以上の大きな責任感を抱いてしまうのです。
ケアテイカーとして育った人は、「誰かの役に立つことが自分の幸せ」「誰かの役に立てていないと自分には価値がない」といった価値観を抱え大人になっても人間関係の中で他人の感情や望みを最優先にしがちです。そのため、自分自身の気持ちや望みを後回しにする傾向が強く、健康的な関係を築くのが難しくなることがあります。
この記事では、アダルトチルドレンがどのようにしてケアテイカーとなり、その役割が人間関係にどのように影響を与えるか、またそこから解放される方法について詳しく解説していきます。
ケアテイカーとは?
「ケアテイカー」という言葉はもともと「お世話をになう人」という役割に対する言葉ですが、日本でのアダルトチルドレンについての文脈の中では主に「家庭や人間関係の中で他者の感情や欲求、問題に対して責任を感じ、積極的に関わろうとする特徴をもつ人」を指します。この記事でも主に後者の意味でこの言葉を使用していきます。
この価値観は、特に幼少期に形成されやすく、家族内の問題を自分が解決しなければならないという環境で育った人に多く見られます。
例えば、臨床心理学者のチェイス氏は親がアルコール依存や精神的な問題を抱えている場合、子供が家族のバランスを保つために「ケアテイカー」としての役割を担い、その影響が成人後まで続くケースが多いと自身の論文で述べています。 (Chase, 1999)。
ケアテイカー役割の影響は特に人間関係で顕著に現れます。他人の感情を優先するあまり、自己の感情や欲求を抑えがちで、周囲と良好な関係を築きにくくなります。
ケアテイカーの特徴と人間関係への影響
ケアテイカーの特徴を持つアダルトチルドレンには主に以下のような特徴が見られ、それが人間関係に影響を及ぼします。
1. 自己価値の低さ
ケアテイカーは、自分の価値を「他人のために役立つこと」で測りがちです。そのため自分の感情を後回しにして他人を優先することが多く、恋愛や職場の人間関係において自己を犠牲にすることが増えます (Lifton, 1996)。他人に応え続けることでストレスが積もり、心理的な負担を感じやすくなります。
2. 境界線の不足
家庭内で他人の問題に巻き込まれる経験が多いため、ケアテイカーは「境界線」を設けることが苦手です。そのため職場やパートナーとの関係でも他者の感情に巻き込まれ、心身の負担が大きくなりがちです (Woititz, 1983)。
3. 依存的な人間関係
ケアテイカーは人間関係で「依存傾向」が強く、自分の役割がなくなることを恐れます。特に、「尽くさないと見捨てられる」といった不安を抱えがちで、自分のニーズを犠牲にしてでも相手に尽くす傾向が見られます (Lander et al., 1992)。このような依存的なパターンは自己価値を低下させ、健康的な関係構築を妨げる要因となります。
ケアテイカー役割からの解放法
ケアテイカー役割から解放されるには、自己の感情や欲求に気づき、健全な「境界線」を引くことが重要です。以下はその具体的な対策です。
1. 自己の感情とニーズに気づく
ケアテイカーは自分の感情やニーズを後回しにしがちです。日々の生活の中で「今自分は何を感じているか」「本当に望むことは何か」を確認し、自分の気持ちを大切にする習慣をつけると良いでしょう (Beattie, 1987)。
自分の感情に気づくことが難しいようなら瞑想などのマインドフルネスや、一日の終わりに楽しかったことを日記に記録するなどして「自分が何を大切にして何を楽しいと感じるのか」を探ってみましょう。
2. 健康的な境界線の設定
ケアテイカーが人間関係で自己を守るには、他人の期待に全て応えないと決めることが必要です。相手に「ノー」と言える練習や、自分の限界を守ることで、自分の幸福に重きを置くことができます (Cloud & Townsend, 1992)。
日常でも「ノー」と言う勇気をいつも心の片隅にもって行動するといいでしょう。
3. 自己価値の再定義
ケアテイカーは自己価値を他人への貢献で測る傾向がありますが、自分の幸福や趣味を通して価値を再定義することが重要です。自己肯定感を高めるために、新しい趣味や目標を持つことが推奨されています (Bradshaw, 1996)。
ほかの人の価値観に左右されない、自分の好きなこと、自分の幸せ、自分の趣味を確立することが重要です。
海外研究に基づくケアテイカー役割の影響
海外の研究では、アダルトチルドレンのケアテイカー役割が人間関係だけでなく、職場にも影響を与えることが示されています。Ackerman(1987)は、ケアテイカー役割が職場でも他人の問題に巻き込まれやすく、評価が安定しない傾向があると報告しています。また、家庭内の健全な「境界線」を教育することで次世代への影響を軽減することが重要であるとも強調しています。
まとめ
アダルトチルドレンの「ケアテイカー」役割は、幼少期に家族の問題を解決しようとする過程で形成され、成人後も人間関係に影響を与えることが多いです。他人のニーズを優先しがちなため、自己価値が低くなり、健全な境界線が引けないといった問題が生じます。しかし、自己の感情やニーズに気づき、健康的な人間関係を築くために「ケアテイカー」役割から解放されることは可能です。この記事の内容が、自己価値の再定義や健全な境界線を設ける一助になれば幸いです。
参考文献
- Ackerman, R. J. (1987). Perfect Daughters: Adult Daughters of Alcoholics. Health Communications.
- Beattie, M. (1987). Codependent No More: How to Stop Controlling Others and Start Caring for Yourself. Hazelden Publishing.
- Bradshaw, J. (1996). Healing the Shame that Binds You. Health Communications.
- Chase, N. D. (1999). Burdened Children: Theory, Research, and Treatment of Parentification. Sage Publications.
- Cloud, H., & Townsend, J. (1992). Boundaries: When to Say Yes, How to Say No to Take Control of Your Life. Zondervan.
- Lander, L., Howsare, J., & Byrne, M. (1992). The Impact of Substance Use Disorders on Families and Children: From Theory to Practice. Social Work in Public Health, 28(3-4), 194–205.
- Lifton, B. J. (1996). Lost and Found: The Adoption Experience. Harper & Row.
- Woititz, J. G. (1983). Adult Children of Alcoholics. Health Communications.
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